2025年11月25日

月経前のイライラ、落ち込み、だるさ、集中力の低下…。「毎月つらいのに、対策が分からない」「仕事や家庭生活に支障が出ている」というご相談は少なくありません。特に、症状が重い場合は PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害) の可能性もあります。
PMS/PMDDは“がまんするもの”ではなく、 適切な治療で改善が期待できる疾患 です。婦人科専門医が、原因・症状・治療法を最新の知見をもとに解説します。
PMS/PMDDとは?
PMS(Premenstrual Syndrome) は、月経前の3〜10日間に心身の不調が現れ、月経開始とともに軽快する状態を指します。
代表的な症状は以下の通りです:
- ・情緒不安定、イライラ、怒りっぽさ
- ・落ち込み、不安感
- ・集中力の低下、眠気、不眠
- ・頭痛、倦怠感、むくみ、乳房の張り
一方、PMDD は精神症状が特に強く、日常生活に著しい支障をきたす状態をいいます。診断の鍵は、症状が月経周期と明確に連動している ことです。
PMS/PMDDの原因
完全には解明されていませんが、主に以下が関与すると考えられています:
- ・女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の変動
- ・脳内セロトニンの変調(PMDDで特に示唆)
- ・ストレス・生活習慣の影響(睡眠不足や栄養不良など)
最新の治療法(エビデンスに基づくアプローチ)
PMS/PMDDには複数の治療法があり、症状に合わせて選択します。
① 生活習慣の改善(基本)
軽症例では、生活改善のみで症状が軽くなることもあります。
- ・睡眠の質を上げる
- ・適度な運動(有酸素運動)
- ・カフェイン・アルコールの控えめな摂取
- ・マグネシウム、ビタミンB6の補充
② 低用量ピル(OC/LEP)
排卵を抑えることでホルモン変動を少なくし、症状の安定が期待できます。特に Drospirenone(DRSP:ドロスピレノン) 含有ピルは、むくみ・情緒症状に一定の改善効果があるとされています。
③ SSRI(抗うつ薬)
PMDDに対して、最もエビデンスの強い治療のひとつです。特徴として、月経前の数日だけ服用する「間欠投与」も可能で、セロトニンの働きを改善し、気分症状を大きく軽減します。
④ 黄体ホルモン(プロゲステロン)治療
一部のケースで、ホルモンバランスを整える目的で使用されます。特に子宮内膜症や排卵痛を伴う場合に選択されることがあります。
⑤ 漢方薬
体質や症状に応じて、加味逍遙散、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝茯苓丸などが使用されます。西洋医学との併用も可能です。
⑥ GnRHアゴニスト(重症例)
薬剤で一時的に「閉経状態」を作り、ホルモン変動をゼロにすることで症状を抑えます。注意点として、更年期症状が出る場合があり、長期使用は推奨されません。重症例や他治療が無効な場合に検討されます。
受診をおすすめするタイミング
以下に当てはまる場合は、専門医の診察が有用です。
- ・気分の落ち込みが強く、月経のたびにつらい
- ・家事・仕事・対人関係に支障が出ている
- ・イライラや怒りの爆発で自己嫌悪がある
- ・毎月同じタイミングで症状が悪化する
- ・市販薬や生活改善では改善しない
記録アプリなどで 症状の時期と強さをメモしておくと、診療がスムーズになります。
まとめ
PMS/PMDDは、適切な治療で大きく改善できる疾患です。特にPMDDは、「性格の問題」ではなく、脳内のセロトニンと女性ホルモンの変動による“医学的な状態” です。つらいと感じたら我慢せず、早めに相談してください。症状を正しく見極め、あなたに合った治療を一緒に探していきます。
